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No.28 全体最適の経営

2007.5.3

 5月3日付け日経新聞朝刊の経済教室欄に宮田秀明東大教授の論文が掲載された。異分野の視点から経済学を語ることがテーマであった。

 世の中の事象はかなりの部分非線形(事象間の相関関係が比例的でないもののこと)で、自然科学分野は非線形に挑戦しているものの、社会科学特に経済学は複雑化する現実の経済を前に線形的アプローチで問題を解こうとしている。著者が言うには自然現象よりもより非線形的である人間の行為を対象にしながらも人間行動の複雑事象を単純化するのは誤りであるとも指摘している。

 人類の最大課題は人口問題と環境問題。このままでは2050年に人口は120億人に達する。子や孫の代に人類は存続できるのか全体最適が人類永遠のテーマであるはずが、現実は120億の人口を意識した設備投資を急ぎ、消費社会を拡大しようとするアドホックな企業行動が見られる。著者は経済学、経営学の分野に理系論理を注入して社会全体最適に役立つモデルを創造することが喫緊のテーマと述べられている。MOTの考え方はこの思想からでている。

 地球社会規模の全体最適を考える場合、対象のテーマが人口問題、環境問題であることは自明ですが、企業単位の全体最適という考えは成り立つのでしょうか。全体最適を求める対象は何になるのでしょうか。企業利益を最適の指標としても全体最適は得られないでしょうが企業利益が全体最適をもたらす基礎的条件であることも間違いないことです。全体を組成する要素の最適の集計が全体最適をもたらすとも言えないでしょう。

 非線形の最たる人間の心の有り様は、他の事象個別とは千差万別の線形を示すと考えられます。結果、1人であっても数え切れない非線形の現象が生ずることになります。経済活動が非線形な人間を対象としている限り、企業は対象を単純化することなく、複雑なものは複雑なものと捉えていくしかないのかもしれません。

 東大現役医学部生が書いた「頭のよくなる勉強法」という本が出ています。その中で著者は定義しています。頭がよいとは、問題設定と問題解決の能力を言う。これに準じれば企業における全体最適を考える場合、対象の捉え方、最適の意味等まず問題の在り処を設定することが大切かと思います。