No.13

Top / No.13

No.13 「空気の研究」

2006.5.22

 高校生の頃、標題「空気の研究」(山本七平著)を読んではまったのを思い出しました。著者の山本七平氏は超一流の思索家で、物書きでありながら、最後まで山本書店店主と名乗っておられました。「日本人とユダヤ人」をイザヤベンダサンの名で著したのも氏です。

 読み直していないのでうろ覚えですが、「空気の研究」の内容は日本人、日本社会の特性を見極め、日本人の物事の決断の仕方は関与する環境、特に人的なものが醸成する「空気」によってなされるというものです。日本教の教祖の面目躍如ですね。

 確かに日本の会社の会議をみても「空気」の存在を感じます。

 会議そのものは儀礼化しており、むしろそれまでの根回しにより結論は出ており、会議の中で大勢(空気)に逆らう意思表示はし難くなっているようです。論理的だからといって決まるのではなく、論理の対極にある結論さえその場の「空気」により決まることがあります。

 著者が喝破した「空気」が日本社会を形成してきたという見方に立てば、現代では世論が「空気」に該当するかもしれません。政治、経済、社会的事象についての判断基準となる世論を形成しているのは、現代においてはテレビ、新聞等のメディアと言えます。断章主義的な取り上げ方により最近のメディアは世論を誘導しているのではないでしょうか。日本人の国民性が全員一致を求める世論重視の社会であるならメディアが今や日本の方向性、決断を左右する最大の権力者と言えるかもしれません。

 山本七平氏の著作にはオリジナリティー溢れた思索の芯が有るように思います。それも今の評論家のような他者の考えの受け売り、先取りではなく、膨大な内外の古典、哲学、歴史の読み込みから自らの血肉に昇華させ独自の世界観を作り上げてきたと思います。ここまで凡人には思索を追及することは難しいと思いますが、メディアに踊らされない程度の思索は今の時代必要ではないでしょうか。

 今回は私が理想としてきた生き方を全うされた山本七平氏について書いてみました。興味のある方は一度氏の本を読んでみて下さい。