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No.12 千年檜の捩れ

2006.5.15

 昨日たまたまNHK BS2を見ました。奈良薬師寺金堂再建の番組でした。1528年兵火により焼失した金堂を有縁の方々の写経勧進により1976年に再建された宮大工の棟梁のお話でした。 片手間に10分程度見ただけなので宮大工の方の名前も覚えていませんがかなり高名な方なのでしょう。「木」について話される内容があまりにも凄かったのです。(私にとって。)

 薬師寺金堂再建のために使われた木は台湾産の1000年檜です。

 棟梁は、現地台湾の山に入り込み各々の木の性質を峻別し、伐採したそうです。棟梁曰く、「木は生育地の気象条件その他の環境により右捩れの木と左捩れの木がある。その性質を見極め、既に頭に入っている金堂の建築構造のどの部位にどの木を嵌め込むか、捩れを戻す力を利用し建物を組み上げるかが勝負」と。

 現代の建築確認が通ればそれでいいという世界とはかけ離れたものです。木造建築で1000年持たそうという考え方なのですから。

 1000年の寿命を持つ建築物にするとは、その素材となる檜の木が生育するには1000年かかるからだと言われています。この発想は凄いことだと思います。

 台風、地震等自然災害の多い日本にあって、1000年単位で物事を考えている人がいることに驚きを感じました。そういう考え方を持った宮大工の棟梁の責任とプレッシャーは言葉で言い表せないほどのものであることは間違いないでしょう。

 今回の再建に当たっては、焼失することなく残った薬師寺西塔が目前に建っています。仮に地震に遭遇し、西塔が残り、再建した金堂、東塔が崩壊するとなると宮大工棟梁は切腹ものだといわれていましたが気持ちは充分分かります。

 1000年耐用の歴史的建造物を再建する任に当たった人の名誉と負担は、凡人には想像の域を超えています。

 番組の最後に棟梁が言われていました。「木の捩れを熟知することが1000年持つ建造物を建てるのに不可欠なことです。ただ木の捩れは定型化しています。反して人の捩れは右に左に両方にと不定型です。人の捩れを理解し、一つにするには大変だ。」身に沁みる言葉でした。